「PROJECT CENTURY」という名前が最初に登場したとき、多くのゲームファンのあいだでざわつきが起きた。あの“龍が如くスタジオ”が完全新作を手がけるというだけでも十分に話題性はあったけれど、それに加えて「既存のシリーズとは異なる世界観で、新たな挑戦に踏み出すらしい」といった情報が漏れ伝わってきたことで、一気に注目度が高まったのも無理はなかったと思う。

そして、ついにその「PROJECT CENTURY」が正式タイトル『STRANGER THAN HEAVEN』としてお披露目されたのは、2025年6月7日に開催された「Summer Game Fest 2025」の場だった。
このタイミングで発表されたことで、「年末年始あたりに何か動きがあるのでは?」と勘ぐっていたファンの期待にも火がついたわけだが、実はその布石はすでに半年前に打たれていた。というのも、2024年12月の「The Game Awards 2024」にて、すでに開発コードネームとして「PROJECT CENTURY」の存在が明かされていたからだ。
つまり、半年をかけて謎めいたコードネームを育て、正式タイトルとともに世界観の一端をティザー映像という形で提示してきた、という流れになる。

STRANGER THAN HEAVEN

発表時に公開されたティザー映像は、1915年という時代設定を軸に展開されていた。古き良き日本を思わせる街並みや、どこか陰を帯びた空気感。だが、それから間もなく公開された2本目のティザーでは、突如1943年という文字が映し出される。つまり、この作品は少なくとも2つの時代をまたいで物語が展開されることを示唆していたわけで、ここでさらに「なんだこれは」と期待が膨らんだ人も多かったはずだ。

時代が違えば、街も人も空気も変わる。そして、プレイヤーが操作するキャラクターがその変化の中で何を体験し、何を選ぶのか。それを想像するだけで、このタイトルに込められたスケール感が伝わってくる。龍が如くスタジオの新作と聞けば、どうしても「熱いドラマ」「濃厚な人間模様」「クセの強いキャラたち」といった既存の文脈で期待してしまうものだけれど、今回の『STRANGER THAN HEAVEN』は、それらを土台としつつ、まったく新しい方向に舵を切ってきたようにも感じられる。

今の段階では、まだ情報が限られているのは確かだ。ただ、「これまでとは違う何かが始まる」という空気感だけは、すでに十分に漂ってきている。その空気をどう読み解くかによって、このゲームに対する見方もまた変わってくるかもしれない。

時代設定は1915年と1943年――2つの日本を描く

1915年と1943年。このふたつの年号が示された時点で、少なくとも「時代劇」と「戦時中のドラマ」という2つの文脈が読み取れる。それだけでもう、ただのアクションゲームではないという予感が漂ってくる。
そして、その予感は実際に公開されたティザー映像を見ればさらに確信に変わるはずだ。大正4年の街並みに映し出された人々の暮らしや雰囲気、そして昭和18年の空気感――どちらにも強い演出意図が感じられる。

STRANGER THAN HEAVEN

注目すべきは、その2つの時代をただ“並列に並べている”わけではなさそうな点。初報段階では1915年の物語が中心になるのかと思われていたが、2本目のティザーで1943年の描写が加わったことで、一気に「時間をまたぐ構造」が浮かび上がってきた。これはつまり、主人公や物語の軸が、ひとつの時代だけに閉じていない可能性を示しているということになる。

では、なぜこの2つの年なのか。
1915年は、大正時代の中でもまだまだ近代化が発展途上だった頃であり、ある種の“混沌”が色濃く残るタイミングだ。一方、1943年は太平洋戦争の真っただ中。日本という国そのものが大きな岐路に立たされていた時代だ。
つまり、どちらの時代も「個人の生き方」が社会や政治の流れに強く揺さぶられる時代だったという共通点がある。その中で、ひとりの人間が何を見て、何を信じて、どう生き抜くのか。『STRANGER THAN HEAVEN』が描こうとしているテーマは、そこにあるのかもしれない。

さらに言えば、舞台の一部が熱海である可能性があるという点も見逃せない。クリーニング店という設定と併せて考えれば、きらびやかな歓楽街ではなく、どこか生活感のあるロケーションを意図的に選んでいるようにも感じられる。
それが1915年の熱海なのか、それとも1943年の戦時下の熱海なのか、あるいはその両方なのか。現時点では明言されていないが、いずれにしても「時代と場所の選び方」には強いこだわりがあると読み取れる。

このように、ふたつの時代が交錯する世界観は、単なる背景設定を超えて、物語そのものの構造を決定づけている要素だと考えたほうがいい。
つまり、ただ時代を見せたいのではなく、その時代に生きる「人間の選択」や「過去と未来の因果関係」までを描く――そんな企図が見えてくるわけだ。

主人公「大東マコ」の謎に迫る

2つの時代設定があるということは、当然そこに登場する人物たちにも時間をまたぐ何かしらの意味があるはずだと、自然と想像してしまう。そして、その中心にいるのが――主人公「大東マコ」という存在である。

STRANGER THAN HEAVEN

ティザー映像の中で最も印象的だったのは、「日本人か?」と問われて「さあな、俺が知りてえよ」と返すこのキャラクターのセリフ。
その言葉に続いて、ゆっくりとサングラスを外すと、そこには青い瞳が映し出される。この演出だけで、ただ者ではない雰囲気が漂ってくるのは間違いない。というか、あの一瞬で「この男には何かがある」と思わせるだけの説得力が、すでに画面越しから伝わってきたんだ。

名前は「大東マコ(だいとう・まこ)」とされており、その響き自体は和風でありながらも、青い目というビジュアルと併せると、どこかしら異質な存在感がにじみ出ている。
このギャップこそが、彼の正体に対する想像を一気に膨らませる要素になっていて、「果たして彼は何者なのか?」「なぜ自分のルーツすら知らないのか?」と、プレイヤーの興味を自然と物語の中へ引き込んでくる仕掛けになっている。

そしてもう一つ気になるのが、「熱海でクリーニング店を営んでいる」という設定だ。これは一部のメディアが報じた情報ではあるけれど、もしこれが事実だとすれば、相当に異色な主人公像と言えるかもしれない。
派手なギャングやアウトローを描いてきた“龍が如く”シリーズの文脈とは一線を画す、いわば“静かな日常”を持った人物としての登場。それが後にどんなドラマへと転じていくのか、想像するだけで物語の振れ幅が広がってくる。

また、服装や身のこなしにも注目したい。白い帽子にコート姿というスタイルは、一見すると探偵のような雰囲気もあるが、戦闘シーンでは激しいアクションを繰り広げている姿も確認されている。
つまり、静と動、日常と非日常、その両方を行き来するキャラクター像として設計されている可能性が高く、彼の行動一つひとつに「この人間は何を背負っているのか?」という問いが付きまとう構成になっているようにも感じられる。

まだ名前とビジュアルの一部、そしてごく短いセリフしか公開されていないにもかかわらず、ここまでの情報だけで、すでにプレイヤーの心に“引っかかり”を残している。その時点で、キャラクターデザインとしてはすでに成功していると言っても過言ではないはずだ。
『STRANGER THAN HEAVEN』が描こうとしている深いテーマを、この男――大東マコがどんな姿で体現していくのか。続報を待つ手が、思わず止まらなくなってしまう。

ゲームシステムとジャンルの特徴

主人公・大東マコという存在がただならぬ雰囲気を放っている時点で、ゲームの中身にも“ひと癖”ある仕掛けがあるのではないか、と期待してしまう。
実際、現時点で判明しているゲームシステムの断片からも、それはどうやら間違っていなさそうだ。

まず、大前提として本作は「アクションゲーム」に分類されている。
これはティザー映像や各種メディアが報じている通り、バトル要素を中心に展開されるジャンルであることを示している。ただ、その“アクション”が単純に敵をなぎ倒すだけの派手さを重視した内容なのかといえば、どうやらそういう話ではない。
重要なのは、戦闘中に「選択」が介在してくる点にある。

STRANGER THAN HEAVEN

たとえば、とどめを刺すか否か――というシーンがある。
この“とどめ”という言葉一つとっても、その判断はプレイヤーの倫理観や状況判断に委ねられる。そして、その選択がゲーム内の環境や物語に影響を及ぼす可能性があるという報道も複数確認されている。
いわば、“殴る”ことそのものよりも、“その後どうするか”の判断に重みが乗せられているわけだ。だからこそ、ただのバトルでは終わらない。

さらに、探偵的な要素も一部取り入れられているようで、相手の会話に「聞き耳を立てる」ような描写も見受けられた。
この仕組みが具体的にどうストーリー進行や選択肢と絡んでくるのかはまだ不明なものの、「聞く」「探る」「迷う」といった心理的なアクションが、物語を左右していく可能性は高い。
つまり、アクションでありながらも、思考や観察を求められるシーンが組み込まれているということになる。

そしてもうひとつ興味深いのが、「慈悲を与えるかどうか」がその後の環境に影響するという点だ。
これがもし本格的にシステムとして組み込まれているのであれば、選択によって分岐するストーリーや、周囲の人間の反応が変化していくといった、多層的な構造が存在していると考えていい。
つまり、プレイヤーの判断が、“その瞬間”だけでなく“その先”までを変えていく可能性があるということ。それはゲームを進めるほどに、プレイヤー自身の姿勢や価値観が試される構造でもある。

STRANGER THAN HEAVEN

あえて言えば、こうしたシステムは“遊び”というより“体験”に近い。
ただ手を動かしていれば進行していくようなゲームではなく、「その一手に自分が関わっている」という感覚を、プレイヤーに強く意識させてくるような設計になっている。
この手触り感の濃さこそ、『STRANGER THAN HEAVEN』が持つ最大の魅力のひとつなのかもしれない。

現時点で判明している発売情報

ここまで語ってきたように、『STRANGER THAN HEAVEN』は世界観、キャラクター、ゲームシステムのいずれをとっても注目に値する作品だ。ただし、現段階ではまだ情報がすべて明かされているわけではなく、むしろ“これから”が本格的なスタートといった印象に近い。

その最たるものが、発売日と対応プラットフォームの情報である。
各メディアの報道や公式発表を確認しても、いまのところ「いつ発売されるのか」「どの機種で遊べるのか」といった基本的な情報は明かされていない。
開発元である龍が如くスタジオの動向を見ていると、これまでのシリーズ作品では比較的早い段階で対応機種などを公開してきた実績があるため、今回も時期を見て順次情報が出てくることは期待できる。

STRANGER THAN HEAVEN

また、現時点で公式サイトはまだオープンされておらず、情報発信のハブとなる場が存在しない状況でもある。
その代わりとして、龍が如くスタジオ公式YouTubeチャンネル上で公開されている2本のティザートレイラーが、事実上の情報源となっている。
この2本の映像は、それぞれ異なる時代背景や主人公の描写に焦点を当てているため、「ストーリーや舞台設定を読み解く」上では非常に重要な手がかりになる。
映像から読み取れる細かな演出や演技のニュアンスをじっくり観察することで、正式な情報公開に先んじて、作品の“温度感”を掴むことはできるかもしれない。

つまり、今の段階ではまだ“完成された情報”は揃っていない。
けれど、だからこそ断片的な要素から世界観や意図を推測する楽しさがある。
そしてなにより、「なぜ今このタイミングでこの作品を発表したのか」という背景にも、きっと意味がある。
正式な発売日やプラットフォームの発表は、今後の続報で明かされていくとは思うが、それを待つ時間すらも、ファンにとっては物語の一部のような感覚として楽しめるのかもしれない。

『STRANGER THAN HEAVEN』がもたらす可能性とは

ここまで触れてきたように、『STRANGER THAN HEAVEN』というタイトルは、単なる“新作ゲーム”という枠を超えた存在感をまとっている。
それは、おそらく舞台設定の巧みさやキャラクターの奥深さだけじゃなく、作品全体に漂う“何かを問う空気”に起因しているのかもしれない。

過去と現在を繋ぐ2つの時代。
そして、自らの正体を問う主人公・大東マコという存在。
その両方を内包しながら、アクションと選択、静けさと暴力、日常と謎解きが交差する構造。
いま公開されている情報だけでも、これまでの“龍が如くスタジオ”が培ってきた技術と表現力を、まったく別のベクトルへ昇華させようとしている気配が、ひしひしと伝わってくる。

これまで、龍が如くスタジオが積み上げてきたシリーズの多くは、「男の生き様」や「絆」「喪失」「再生」といった重厚なテーマを描いてきた。
その延長線上に本作があるのか、それとも完全に異なる文脈を描き出そうとしているのか。
現時点では明言できないけれど、いずれにしても『STRANGER THAN HEAVEN』には、そうした“人間の核”に触れるような、骨太な物語が内包されているように思えてならない。

何より、コードネームとしての「PROJECT CENTURY」という言葉にも意味があると感じている。
「世紀をまたぐような挑戦」「100年を通して伝えるべき何か」。
そういったメッセージ性を内包していると仮定するなら、本作は単なる娯楽ではなく、“物語の装いをまとった問いかけ”のような存在なのかもしれない。
プレイヤーはその問いに、画面越しに、あるいは選択肢の中で、自分なりの答えを返していくことになる。

もちろん、正式な情報はまだ少ない。発売日も、対応機種も、全貌もまだ明かされてはいない。
それでも、これだけ心が動かされてしまうのは、きっとこの作品が“情報”ではなく“空気”で語りかけてきているからだ。
そして、その空気に応えるように、プレイヤー側も想像を膨らませ、思いを馳せている。そんな関係がすでに始まっている気すらする。

今後、どんな情報が出てくるのか。
そして、それが想像を超えてくるのか。
このタイトルに向けられた期待の眼差しは、今まさに“希望”と“好奇心”の狭間で揺れている。

『STRANGER THAN HEAVEN』。この名前が、ゲーム史にどう刻まれていくのか。
その物語が動き出すその日まで、じっくりと待ち構えていこう。