『明末:ウツロノハネ』の世界観は、ただのアクションRPGという枠にとどまらず、重厚な歴史背景と幻想的な要素が緻密に交錯している。その舞台となるのは、明代末期──つまり1647年前後の中国・古蜀(現在の四川省周辺)。乱世の渦中で秩序を失ったこの時代には、現実に存在した混乱と恐怖があったのだけれど、『ウツロノハネ』はそこに“羽化病”という未知の病を加えることで、さらなるダークファンタジーの世界へと深化させている。
物語の主人公は、「無常(むじょう)」という名を持つ記憶喪失の女侠。彼女は、もともと海賊として荒れた時代を生きていた存在だが、目を覚ました時には記憶も立場もすべてを失っていた。そして唯一の確かな事実が、彼女の体が“羽化病”に蝕まれているということ。この疫病は、人を羽根の生えた異形へと変えていく非常に厄介なもので、すでに多くの人間を怪物へと変貌させてきた。しかし無常は、なぜか正気を保っている。いや、むしろこの病を武器にすら変えてしまう。

この設定だけでも、プレイヤーとしてはすでに没入感が高まる要素がそろっていると感じられる。乱世のリアリティ、得体の知れない病、そして記憶喪失の女主人公。これらすべてが絡み合いながら、プレイヤーは無常の視点で物語を追い、自身の過去とこの世界の真相に迫っていくことになる。
舞台となる古蜀のフィールドも見逃せない。密林に覆われた遺跡、廃墟と化した寺院、陰鬱な山道など、探索するエリアのひとつひとつに独自の表情があり、どこを見ても風景が緻密に作り込まれているのが印象的だった。歴史的な建造物をモチーフにしたロケーションが多く、まるで時代劇の世界に放り込まれたかのような没入感が味わえるのも大きな魅力となっている。
そして忘れてはならないのが、プレイヤーの選択によって物語が分岐していくという点。発見した秘密や出会った仲間たちの影響で、エンディングがまったく異なる展開になることもある。一本道では終わらない物語の可能性こそが、このゲームを一度クリアしただけでは終わらせてくれない理由のひとつでもある。
ソウルライクに革新をもたらす「須羽(すわ)システム」
『明末:ウツロノハネ』の戦闘システムには、これまでのソウルライク作品では感じたことのない、新たな駆け引きと爽快感が詰め込まれている。その中心にあるのが「須羽(すわ)」と呼ばれる独自のメカニクス。このシステムが、プレイヤーにこれまでとはまったく異なるプレイスタイルを促してくれるから、初めて体験したときは思わず身を乗り出してしまった。
須羽システムの根幹は、「回避」にある。といっても、ただ単に敵の攻撃を避けるだけじゃない。敵の攻撃をタイミングよく“ジャスト回避”することで、須羽エネルギーが蓄積されていく仕組みになっていて、それが一定量溜まると、武器スキルや法術、流派スキルの威力が一気に高まる。この感覚が本当にクセになる。攻撃されそうになった瞬間にギリギリで回避し、その見返りとしてこちらが大技を叩き込める。このリスクと報酬のバランスが、これまでの“慎重な立ち回りが前提”というソウルライクの文法を少しずつ壊しながら、新しい快感をもたらしている。

しかも、須羽の蓄積方法が複数用意されているのもポイントのひとつ。ジャスト回避だけでなく、特定のコンボを成功させたり、道中に咲く青い花に触れることでエネルギーがチャージされる。つまり、ただ戦闘を繰り返すだけでなく、フィールドの探索やルート選びもまた戦闘強化に直結する流れになっているわけだ。プレイヤーが能動的にリスクを取っていくことで火力を伸ばす、そんなプレイの“攻め”が報われるシステム設計になっているのが嬉しい。
加えて、須羽エネルギーはスタック制になっていて、初期状態では1スタックのみだけれど、ゲームを進めるうちに「赤汞(あかぎん)の精華」という強化素材を使えばスタック数を増やすことも可能になる。この成長感もまた心地よい。少しずつ自分のスタイルに合わせて戦術を広げていける感覚があるから、ただの高難度アクションでは終わらない深みが味わえる。
プレイヤーによっては、ジャスト回避を軸にしたビルドで須羽を強化していくのか、それとも武器スキルとの組み合わせで瞬間火力に特化するのか、そのあたりの戦略構築が悩ましくもあり、楽しい時間になってくる。ゲーム側も、そうした多様な戦い方をしっかり受け止めてくれる柔軟さを備えているから、何度戦っても飽きがこない。
まさにこの須羽システムこそが、『ウツロノハネ』という作品をソウルライクの新たなステージへ押し上げている核心部分だと、体感として強く感じる。
武器×流派×法術で自分だけのビルドを構築
須羽システムが戦闘における中核を担っていることは先ほどお伝えした通りだけれど、『明末:ウツロノハネ』が持つ奥深さはそこだけにとどまらない。実際にプレイを進めていくと、武器の種類やスキル構成、さらには戦闘スタイルそのものをプレイヤーの好みに合わせて組み上げられる柔軟性が、非常に緻密に用意されていることに気づかされる。
まず注目しておきたいのが、同時に2種類の近接武器を装備できるシステム。これが想像以上に戦略の幅を広げてくれる。たとえば、リーチに優れた長槍「紅纓槍」で敵の動きを制しながら、タイミングを見て片手剣「斉雲初雪」の素早い斬撃で畳みかけるといった戦い方が可能になる。武器ごとにモーションや特性が明確に分かれているので、どの武器を主軸に置くかによってプレイフィールがガラリと変わるのが面白い。
さらに、各武器には「武器スキル」と呼ばれる固有技が搭載されていて、そこに加えて「流派スキル」と呼ばれる戦闘スタイルに紐づいた技も存在している。この二重構造によって、ひとつの武器を扱うだけでも、かなり多様なアクションが可能になるのが本作ならではの魅力だと思う。しかも、スキルの中には須羽エネルギーを消費して発動するタイプもあり、その瞬間には華やかなエフェクトが画面を彩る。回避に成功し、須羽を溜めてからスキルを叩き込むという一連の流れが、とてもドラマチックで気持ちいい。

さらに興味深いのが「法術」の存在だ。これは物理的な武器スキルとは異なり、遠距離攻撃や特殊効果をもたらす魔法的な技で、敵の動きを止めたり、広範囲にダメージを与えたりすることができる。敵との距離や状況に応じて、近接武器との連携を図ることで、立ち回りの幅が一気に広がっていく。このバトルの自由度の高さが、まさに本作の戦略性を支えていると言える。
そして忘れてはならないのが「破刹(はせつ)」という特殊攻撃。これは敵がダウンした瞬間に発動できる演出付きの一撃で、フィニッシュ的な爽快感があるうえに、演出もかなり凝っている。単に敵を倒すだけでなく、“魅せる戦い方”を意識させてくれる設計がプレイヤーの没入感をさらに高めてくれる。
つまり、『明末:ウツロノハネ』においては、どの武器を使うか、どのスキルを組み込むか、法術をどのタイミングで活用するか、そういったすべての選択がプレイヤーのビルドに直結している。だからこそ、敵の強さやエリアの構造によって戦い方を切り替える必要があるし、その試行錯誤そのものが、このゲームをプレイする醍醐味のひとつになっている。
スキルツリーと心魔で育成・難易度に深み
戦い方を自分好みに組み上げられる武器とスキルの自由度に加えて、『明末:ウツロノハネ』ではキャラクター育成のシステムも非常に奥が深く設計されている。その中核となっているのが「斗転星羽(とてんせいわ)」という名のスキルツリー。この名称だけでも、どこか神秘的な雰囲気が漂っているけれど、実際の仕組みは理詰めで構築されている印象が強い。
キャラクターがレベルアップすると、斗転星羽のノードにスキルポイントを割り振れるようになる。それによって新たな技を覚えたり、既存スキルの性能を引き上げたりと、バトルに直結する成長を実感できるのが嬉しいところなんだけど、ここでもうひとつ特筆すべきポイントがある。それが、“いつでも自由に振り直せる”という柔軟性。多くのゲームでは一度決めたスキル構成を後から変更するにはコストや制限があることが多いけれど、本作ではノード単位でリセット可能だから、状況に応じて戦術を切り替えることが本当にやりやすい。
たとえば、ボス戦で火力に特化した構成にしていたけれど、探索エリアでは回避や回復を重視したビルドにしたいと感じたときにも、すぐに方針を変えられる。これが結果として、試行錯誤の楽しさを何度でも味わえる仕組みに繋がっている。プレイヤーが“自分なりの正解”を見つけるまでに色々な道筋を辿れるように設計されているのが、本当に見事だなと思った。
そして、もうひとつこの育成とバトルの両面に影響を与えてくる存在として、「心魔(しんま)」という要素がある。このシステムは、ある種のリスク・リターンを明確に突きつけてくる存在で、敵を倒すごとに“心魔値”というゲージが上昇していく。それが一定値を超えると、突然“心魔降臨”が発動し、通常よりもはるかに強力な敵が出現する仕組みになっている。プレイヤーにとっては一気に難易度が跳ね上がる瞬間でもあるけれど、それを乗り越えた先には、特別な報酬や経験が待っている。

この心魔の存在があることで、ただ漫然と敵を倒して進むのではなく、常に自分のリスク管理を意識しながら行動することが求められるようになる。だからこそ、緊張感が最後まで途切れないし、育成や戦闘の選択にも重みが加わってくる。単に「強くなればいい」という一方向的な育成ではなく、“どこで、どのリスクを取るか”という判断が常に絡んでくるのが、『ウツロノハネ』という作品の巧妙な設計だと感じた。
こうしてスキル構築と心魔の要素が複雑に絡み合うことで、ただレベルを上げて物理で殴るような単調さとは無縁の、戦略的で味わい深い育成体験が広がっていく。この育成と難易度設計の絶妙なバランスが、本作の中毒性を一段と引き上げているように思う。
探索・謎解き・分岐エンディングで没入感アップ
育成や戦闘だけでも十分に濃厚な体験を提供してくれる『明末:ウツロノハネ』だけれど、探索の楽しさや物語の多層性においても、決してその完成度は引けを取っていない。むしろ、本作の魅力を語るうえで、フィールド探索とストーリーの構造は絶対に外せない要素だと感じた。
まず、フィールドの作り込みに関して言えば、その緻密さは目を見張るものがある。物語の舞台である古蜀の地は、廃墟と化した寺院や、密林に覆われた遺跡、陰湿な雰囲気の山道など、時代背景を意識したリアリティある構造で構成されている。これらのロケーションは単なる背景ではなく、それぞれが探索可能なエリアとして設計されており、視覚的な美しさとともに、立体的なマップ構造によって「歩いて確かめる楽しさ」がしっかり存在しているのが印象的だった。

探索と同時にもうひとつ重要な要素として挙げたいのが“謎解き”だ。道中には過去の記憶を断片的に記録した装置や、鍵のかかった扉、特定の条件でしか開かないルートが配置されていて、これらをひとつひとつ解き明かしていくことで、プレイヤーは少しずつ無常の過去や、この世界で何が起きているのかを理解していくことになる。単に敵を倒して先に進むだけでは見えてこない物語の背景が、探索の中で自然と浮かび上がってくる構成は、本作の深さを物語っていると思う。
そして極めつけが、“選択によって物語が分岐する”という点。いわゆるマルチエンディング構造が採用されていて、プレイヤーがどのような行動を取り、誰と関わり、どんな秘密を暴くかによって、エンディングがまったく異なる展開を見せてくれる。ゲームを1周クリアしただけでは語りきれない深層があり、「今度はあの選択肢を選んでみよう」「別の順路であの人物に会ってみたい」といった再プレイへの動機づけも自然に生まれてくる。
このように、『ウツロノハネ』では戦って終わりではなく、歩き、探し、考え、選ぶ──そんな“プレイヤー自身の行動”がそのままゲームの体験そのものに直結している。だからこそ、ひとつひとつの発見に意味があり、何気ない寄り道ですら、のちの展開に影響を及ぼす可能性を秘めている。あらゆる場面でプレイヤーの意志が問われるこの設計こそが、本作の没入感を最大限に高めている要因だと強く感じた。