「メモリーズオフ」という名前を聞いて、かつての甘酸っぱくも切ない記憶が蘇る人も多いかもしれません。このシリーズは、恋愛アドベンチャーゲームとして20年以上の歴史を持ち、その中で数々の心を打つ物語を紡いできました。そして2025年4月10日、その25周年を記念する作品として『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』がリリースされました。

対応プラットフォームは、Nintendo Switch、PlayStation 5、PlayStation 4、そしてSteam。今やビジュアルノベルを楽しむ環境としても主流となったこれらのデバイスに幅広く対応しており、過去のファンも新たなプレイヤーも手に取りやすい形で展開されています。販売はおなじみのMAGES.。シリーズファンにとっては、この点だけでも安心感があるかもしれません。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

さらに製品形態も多彩で、通常版はもちろん、豪華特典が詰まった「限定版」や「超限定版」、そしてDLCが同梱された「デジタルデラックスエディション」も登場。ファンアイテムとしては、シリーズの象徴でもある彩音さんが歌う主題歌「Not always true」のCDも、ゲーム発売から間もない2025年4月16日にリリースされました。つまり本作は、単なるゲーム体験にとどまらず、シリーズの歴史を祝う“記念パッケージ”としての側面も強く打ち出されています。

まずこの段階で伝わってくるのは、制作陣の本気度です。25周年という節目に、過去と未来をどう繋ぐのか――そこに真摯に向き合おうとした意図が、ゲームそのものだけでなく、周辺の展開からも伝わってきます。では、そんな本作の中身はどんな物語で、なぜここまで評価が分かれているのか。

作品のコンセプトとシナリオに焦点を当てて掘り下げていきます。

『双想 ~Not always true~』の物語とコンセプト

この『メモリーズオフ 双想』という作品が、ただの記念作に終わらなかった理由は、その物語の切り口と構成にあります。シリーズの中でもひときわ異彩を放つ今作は、プレイヤーの心に“痛み”という名の余韻を深く残す仕掛けが、静かに、しかし確かに張り巡らされているんです。

物語の主人公となるのは、慶陽大学付属藤川高等学校に通う2年生、「久寿米木 一葵(くすめぎ いつき)」。ある日突然、自分には顔も名前も知らない“許嫁”が存在しているという現実に直面するところから物語は動き出します。現代的な感覚ではやや突飛に映る設定ではあるものの、そこに込められたテーマはきわめて現実的で、誰もが抱える“関係の始まりに潜む違和”のようなものを浮かび上がらせています。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

本作の副題「Not always true(=真実はいつも一つじゃない)」が象徴しているように、この物語では一つの視点に固定されることなく、選択肢の積み重ねによって“真実”の見え方が揺れ動いていきます。ルートによっては、恋愛というジャンルの枠を軽々と飛び越え、ヒロインの誰かが宗教的な組織と関係していたり、主人公自身の過去に触れる中で、見えていた景色が全く別の意味を持ち始めたりするんです。

シリーズで一貫して描かれてきた「かけがえのない想い」や「痛みを伴う恋愛」というキーワードは、この作品でも健在です。ただしその描き方は、これまでの作品にあった“切なさ”の延長線上というより、さらに一段深い領域に踏み込んでいる印象があります。それは、過去作のように共感しやすい甘酸っぱい感情ではなく、選択を誤ることで取り返しのつかない状況に陥るような、“重さ”のある感情です。

そして、この物語に触れた多くのプレイヤーが驚きを隠せなかったのが、あるバッドエンドの展開。あまりにも衝撃的で、後味の悪さすら感じるような結末が待っているそのルートは、一部では「シリーズ史上最高の完成度」と絶賛される一方で、「そこまでやる必要があったのか」と首をかしげる声も見受けられるほど。

この相反する評価こそが、本作の核心部分に触れているとも言えそうです。あえて極端な感情をプレイヤーに与えることで、記憶に残る作品に仕上げようとした制作陣の意図。それをどう受け止めるかは、まさにプレイヤー一人ひとりに委ねられているのかもしれません。

ゲームシステムとルート分岐の深さ

本作のプレイスタイルは、いわゆる伝統的なビジュアルノベル形式に則ったものです。プレイヤーはテキストを読み進めながら、時折現れる選択肢を選ぶことで物語の方向性を定めていきます。ここまではシリーズ経験者にとって馴染みのある進行でしょうし、初めて触れる人にもすんなりと入りやすい設計だと感じられるはずです。

ただ、この『双想』がユニークなのは、システム自体の奇抜さではなく、選択肢によって導かれるルートの“質”にあります。ヒロインは5人以上存在し、それぞれが個別のルートとエンディングを持っていること自体は、恋愛アドベンチャーとしては一般的な構造です。でも、その一つひとつのルートが、単なる恋模様をなぞるだけでは終わらないのが本作の怖いところなんです。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

たとえば、あるルートでは、ヒロインが密かにカルト教団に属していたという驚くような真実が明かされ、そこから物語は一気にサスペンス色を帯びていきます。また別のルートでは、主人公の過去や家庭環境に踏み込む中で、彼の存在自体に疑問を投げかけるような展開に繋がっていきます。選択肢は単なる分岐ではなく、まるで自分の“無意識の選択”が人間関係や人生そのものを変えてしまうかのような重みを持ってプレイヤーに返ってくるんです。

この“選択の重さ”がリアルである分、どのルートも読み応えがあるんですが、それと同時に強いプレッシャーも感じさせます。誰と向き合い、誰を避け、どんな言葉を選ぶのか。その一つひとつの行動が、恋愛だけでなく、その後の運命さえも変えてしまうような仕組みになっているんです。

しかも、すべてのルートを攻略することで初めて明かされる“真実”や、隠しキャラクター「東雲れい」の存在など、物語全体を通じた伏線と再構成の巧みさも見逃せません。まさに「Not always true」というサブタイトルが象徴するように、すべての物語は“正解”ではなく、あくまでも“視点”に過ぎないという感覚が、プレイを通じてじわじわと染み込んでくるんです。

本作の分岐は、単にボリュームやエンディング数の話ではありません。それぞれのルートに明確なテーマがあり、そのひとつひとつにしっかりとした物語が用意されています。そしてそのテーマの多くが、プレイヤー自身の価値観を揺さぶるような、社会的にも心理的にも深いものばかりなんです。

主要キャラクターと実力派声優陣

『メモリーズオフ 双想』の物語がここまで心を動かす理由のひとつに、登場人物たちの“存在感の強さ”が挙げられます。ただ台詞をなぞるだけのキャラクターではなく、それぞれが抱える過去や想いが、しっかりと物語の中に息づいているからなんです。

主人公「久寿米木 一葵(くすめぎ いつき)」は、見た目には平凡な高校2年生。でも、彼が対峙する現実はあまりに複雑で、時に残酷です。そんな彼の心の揺れを繊細に演じ切ったのが、声優・広瀬裕也さん。淡々とした語り口の中にも、感情の波や不安定さがにじみ出ていて、物語が進むにつれて彼自身がどう変化していくのかを自然と見守りたくなるような説得力がありました。

ヒロインのひとり「洲宮 紗絵(すのみや さえ)」を演じるのは、実力派声優のLynnさん。知的で理性的に見える彼女ですが、心の奥底には揺らぎや迷いが潜んでいて、ルートによってその印象は大きく変わっていきます。特に感情を抑えながらもふとした瞬間に見せる“素の声”に、ドキッとさせられる場面が何度もありました。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

他にも、天真爛漫さの裏に影を感じさせる「天羽 ねね(あもう ねね)」を加隈亜衣さんが、芯の強さと繊細さを併せ持つ「北方 和音(きたかた かずね)」を関根瞳さんが演じるなど、どのキャラクターも声と芝居が見事にリンクしています。そして異文化を感じさせる名前が印象的な「フェルスター・マリー・暁空(あきら)」には藍本あみさん、クールで不可思議な存在感を放つ「日紫喜 雪加(ひむらき せつか)」には山根綺さんが起用されています。

こうして名前を挙げていくだけでも感じられる通り、本作は声優陣の豪華さという点でも非常に力が入っています。ただそれ以上に印象的なのは、どのキャストも“役になりきっている”ということ。決してテンプレート的な演技ではなく、それぞれの人物が抱える内面を丁寧に表現しているため、プレイヤーは自然と物語に引き込まれていくんです。

そして、そうした演技の力が最も鮮やかに表れるのが、物語の終盤。感情がぶつかり合い、選択によって結末が変化していく中で、声のトーンや間の取り方が絶妙に変化していきます。それは、単にシナリオをなぞるだけでは到達できない“体験”として、確実に記憶に残っていくはずです。

豪華な商品展開と特典情報

ゲームそのものの完成度に加えて、本作『メモリーズオフ 双想』がファンにとって記憶に残る理由のひとつが、周辺展開の充実度です。MAGES.が手がけるタイトルにはいつも一定の“おもてなし”感が漂っていますが、今回は25周年という節目もあってか、その力の入れ具合がひと味違っていました。

まず、パッケージ版についてですが、通常版に加えて、ファン心をくすぐる「限定版」や「超限定版」が用意されています。これらの上位エディションには、アートブックやドラマCD、特製パッケージ、キャラクター設定資料などが同梱されていて、まるで作品世界を“手元に閉じ込めた”ような感覚すら味わえる内容となっていました。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

さらに、デジタルでの展開にも抜かりはなく、「デジタルデラックスエディション」では、DLCコンテンツやサウンドトラックが収録されており、物語をより深く、長く楽しみたいというプレイヤーに対しても、明確な選択肢が用意されています。パッケージ派とダウンロード派、どちらのスタイルにもきちんと応えてくれる柔軟な展開は、今の時代だからこそ求められる“多様性”の表れだと感じます。

そして忘れてはいけないのが、主題歌の存在です。シリーズファンにはおなじみの彩音さんが歌う「Not always true」は、ゲームの世界観をそのまま凝縮したような一曲で、耳に残るだけでなく、歌詞の一つひとつが物語の本質に通じているような深みを持っています。こちらは2025年4月16日にシングルCDとして発売されており、ゲームをクリアしたあとに改めて聴くことで、全く違った感情が呼び起こされることもあるかもしれません。

こうして見ていくと、本作が単なる“ゲーム”にとどまらず、シリーズ25周年という節目にふさわしい“総合的な体験作品”として設計されていることがよくわかります。手に取った瞬間から、プレイが終わったその後まで、しっかりと余韻を残してくれるような作り込み。その姿勢に、長年シリーズを支えてきたファンへの感謝と敬意が込められているように思えてなりません。

ユーザーレビューと評価傾向

ここまで読んでいただくと、本作『メモリーズオフ 双想』がどれほど手間と想いをかけて作られているかが伝わったのではないかと思います。ただ、それだけの作品でありながら、実際の評価は一枚岩というわけではありません。特にSteamでのユーザーレビューでは、肯定的な意見と否定的な意見がほぼ同じ熱量で並んでいて、その様子はまさに“賛否両論”という言葉がぴったり当てはまる状況でした。

まず、評価の中で目立っていたのが、ある特定のバッドエンドに対する熱狂的な称賛です。あのルートを最後まで見届けたプレイヤーの中には、「シリーズの中でも最も完成度の高いエンディングだった」と口にする人がいるほど、深く強烈な印象を残しているようです。予想を裏切られる展開、静かに積み上げられてきた伏線の回収、そしてそこに至るまでの心理描写。どれを取っても、ただ“衝撃的”という言葉だけでは言い表せないような余韻が残ります。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

一方で、そのエンディングに対して拒否反応を示す人も少なくありませんでした。あまりにも陰鬱で、救いのないストーリー展開に「ここまでやる必要があったのか」「これは本当に“メモオフ”なのか」と疑問を呈する声があがっていたのも事実です。特に、過去作のような温かさや希望を期待してプレイしたファンにとっては、作品の変化が“裏切り”のように映った部分もあったように思います。

この振れ幅の大きさが、本作の一番興味深い点でもあります。プレイヤーの価値観や過去作への愛着によって、まったく逆の印象を抱かせるというのは、それだけ強い“個性”が作品に宿っている証拠でもありますから。ある意味で、開発陣はこの「賛否」を覚悟したうえで、あえて今までと違う“重さ”に挑んだのかもしれません。

そしてもうひとつ注目したいのが、「評価は分かれるが記憶には残る」という点。どのレビューを読んでも、本作に対して“何も感じなかった”という意見はほとんど見かけません。肯定するにせよ否定するにせよ、プレイヤーが感情を揺さぶられ、何らかの言葉を紡がずにはいられない。それは、作品として確かな“手応え”があった証しだと、個人的には受け止めています。

このように、『メモリーズオフ 双想』は、“良い”“悪い”という単純な物差しでは測れない位置に存在しています。その評価の揺らぎそのものが、作品タイトル「Not always true」に込められたメッセージとどこか重なって見えるのは、決して偶然ではないような気がしてなりません。

開発背景とテーマ

作品に触れている最中、そしてすべてのルートを走り終えたあとに強く残るのは、ある一貫した“感情の芯”のようなものです。それがこの『メモリーズオフ 双想』という作品が、ただの恋愛アドベンチャーでは終わらなかった理由でもあります。そもそも本作は、シリーズの25周年を記念するという大きな節目に合わせて企画・開発されたものでした。その時点で、開発陣にとっても“ただの続編”ではなかったはずなんです。

これまでの『メモリーズオフ』シリーズは、「かけがえのない想い」や「痛みを伴う恋愛」といったテーマを、時には優しく、時には鋭く描いてきました。ただ今回の『双想』では、それらの原点を踏襲しながらも、あえてさらに深く、そして現代的な問いかけを孕んだ物語に踏み込んでいるのが印象的でした。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

その象徴が、本作のサブタイトルに含まれる「Not always true(真実はいつも一つとは限らない)」という言葉です。表面上は恋愛劇として展開しているように見えて、実際には“誰の視点で見るか”によって全く異なる真実が浮かび上がってくる。そんな多層構造の物語を丁寧に仕込んでいるところに、シリーズの集大成であると同時に、“再出発”としての意味合いを強く感じました。

また、テーマの重さも見逃せません。表現はあくまで繊細で抑制が効いていますが、その根底にあるのは“信じるということの危うさ”であったり、“関係性の強制と選択”であったり、どれも現代社会に生きる私たち自身にも通じる、切実な問題意識でした。中には、明確な悪役が登場するわけでもなく、ただ静かに“分かり合えなさ”がじわじわと広がっていくようなシナリオもありました。それがまたリアルで、そして胸に刺さるんです。

インタビューなどでも語られていた通り、開発陣はこの25周年という機会を、単なるノスタルジーに頼るのではなく、“これからのメモオフ”を提示する場にしたいと考えていたようです。結果として出来上がったのは、賛否こそ分かれながらも、強いインパクトを残す意欲作。長年シリーズに触れてきたファンにとっても、新規のプレイヤーにとっても、決して軽くはないけれど確かな“読後感”を与えてくれる物語に仕上がっていたと思います。

そして、それこそが本作が“最高傑作”とも“戸惑い”とも受け取られる大きな理由なのではないかと感じています。すべての人に優しい物語ではない。でも、それでもこの物語に出会えてよかったと、そう思わせるだけの力が、この『双想』という作品にはあったと、私はそう受け取っています。

まとめ:『双想』は挑戦作であり、記念碑でもある

ここまで読み進めていただいたあなたなら、もうお気づきかもしれません。この『メモリーズオフ 双想 ~Not always true~』という作品は、単なる恋愛ゲームではないんです。もちろん、感情の機微や関係性の揺らぎといった恋愛アドベンチャーらしい魅力も健在ですが、その奥にはもっと複雑で、もっと生々しくて、そしてもっと“個人的”な物語が潜んでいました。

25周年という節目を迎えて、シリーズの名を冠しながら、あえて“期待を裏切る”ようなシナリオに挑戦したというのは、それだけで並々ならぬ覚悟が感じられます。今までの“メモオフらしさ”を大切にしながらも、そこに安住することなく、さらにその奥にある“今、描くべきもの”を追い求めた。その姿勢が、今回の賛否両論という評価にもそのまま反映されていたように思います。

メモリーズオフ 双想 ~Not Always True~

中には、「これはメモオフじゃない」と感じたファンもいたかもしれません。でも、同時に「これが、今のメモオフだ」と受け止めたプレイヤーも確実に存在していました。そこに正解はなくて、どちらもひとつの“想い”として受け止めることが、本作のタイトルが示す「Not always true」という言葉に重なる気がしてなりません。

何を“真実”と見るかは、結局のところプレイヤー自身の視点次第なんですよね。そしてその視点の違いを受け入れることこそが、この作品の一番伝えたかったメッセージなのかもしれません。

今作は、万人にとっての“快作”ではないかもしれません。ただ、それでも私は、この『双想』という作品を「記念碑的な挑戦作」として記憶に刻みたいと思っています。そして、できることなら、あなたにもこの物語の一端を、自分の“視点”で確かめてみてほしい。その選択肢の先に、何を見つけるのか――それは、きっとあなただけの物語になるはずです。